人生100年時代の介護の悩み
50代になると、子育てがひと段落し、お金や時間に余裕ができたと感じる方も多いかもしれません。しかし、そのタイミングでやってくるのが親の介護問題です。
特に、看護師として日々忙しく働きながら、介護の負担が増えることは大きなストレスとなります。介護離職を避けるために、今から親とどのように向き合い、どんな準備をしておけばいいのかを一緒に考えていきましょう。
「介護離職」という言葉をご存知でしょうか?
親の介護が必要になって、今までと同じようにフルタイムで働くことができなくなる、職場を変えざる得ない状態になったり、仕事を続けることができなくなった状態です。
現代は「人生100年時代」と言われています。長寿社会の中で、親の介護が必要になる可能性が高まってきています。
親も「老後は迷惑をかけたくない」と思っていることが多いですが、子供としても「どう切り出せばいいのか」と悩むことがあるでしょう。これらの悩みを少しでも軽くするために、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。
子供に迷惑をかけたくない親の思い
「子供には迷惑をかけたくない。」また、「年をとっても自分の事は自分でしたい。」と思う親は多いのではないでしょうか。
何かトラブルが起こった場合でも、できることなら夫婦で解決したいと思っています。その気持ちを理解しつつも、少しずつ話し合いの場を持つことが大切です。ある年齢までは、夫婦二人で解決できますが、体力に衰えを感じ始めた頃より、夫婦だけでは解決できないことも増えてきます。
できないことが増えても、なかなか子供に伝えたり、相談できる親は少ないと思います。できないと認めることが嫌だという思いもあるのかもしれません。
介護の事は気になるけど、どう切り出してよいか悩む子供
「親の介護が必要になったらどうしよう?」と心配になることは自然なことです。しかし、どうやってその話を切り出せばいいか悩んでしまうこともありますね。
無理に話題にするのではなく、日常会話の中で少しずつ将来のことを共有していくことが効果的です。
親の近くに住んでいて、親と会う機会や話す機会が比較的多いと、話すきっかけも見つけやすいですが、遠方に住んでいると、日常の様子もわからないだけでなく、介護の話を切り出すきっかけがないのが現状です。
こまめに連絡することの利点
遠方でなかなか会って話す機会がない場合は、電話やラインなどの回数を増やしてください。
親と頻繁に連絡を取ることは、介護問題が現実になった時の準備にもなります。
日頃から親の体調や気持ちの変化を把握しておくことで、早めの対応ができるようになります
たまに会うだけでなく、電話やビデオ通話なども活用して、こまめに様子を聞くことが大切です。ビデオ電話は表情がわかるのでとても便利です。ですが、テレビ電話の使用方法がわからないという高齢の親御さんは意外と多いです。
入院患者さんの話ですが、78歳の患者さんは携帯電話をもっていました。電話とラインはできましたが、テレビ電話をしたことがありませんでした。ちょうどコロナの流行った時期で面会制限があったので、いつも「さみしい。早く家に帰りたい。」といわれ、日が経つにつれ元気がなくなっていました。
家族に連絡をとり、テレビ電話で話をしてもらうように依頼し、患者さんには看護師が使い方を説明しました。家族の顔をみて話ができたことで、患者さんは安心と笑顔を取り戻すことができました。
顔をみながら話をする大切さを感じました。
エンディングノートのすすめ
「エンディングノート」は、親の思いを整理し、将来の意思を確認するための大切なツールです。親も、万が一の時に自分の希望を伝える手段として役立ちます。
親の思いを知るきっかけ
エンディングノートは、親が「こうしてほしい」と思っていることを知るきっかけになります。親も、自分の希望を文書に残しておくことで安心感につながり、子供としても対応がスムーズになります。
エンディングノートを書き始めるのは、親にとっても少し気が重いかもしれません。そのため、軽い気持ちで始められるようなアプローチが大切です。まずは簡単な質問から「もしも何かあった時のために、準備しておかない?」という軽いトーンで話を始めると良いでしょう。最初は難しい話ではなく、趣味や好きなこと、友人関係などの簡単な情報から記載することで、少しずつ親が書きやすくなります。
市販のエンディングノートには、親が記入しやすいように質問形式で書けるものも多くあります。そういったものを活用することで、スムーズに書き進められることがあります。
親が夫婦間の意見の調整ができる機会になる
親が人生の終わりに向けての希望や、万が一の時に備えての情報を記入するノートのことです。法的効力がある遺言書とは異なり、エンディングノートには気軽に自分の考えや希望を書き残せます。内容は非常に柔軟であり、親の人生に関するさまざまな情報をまとめるために使われます。
エンディングノートを作成することは、親同士が老後に対してどう考えているかを知るきっかけになり、意見をすり合わせる良い機会にもなります。親の夫婦間でも、老後の生活や介護、終末期の考え方に違いがある場合があります。エンディングノートを作成する過程で、親同士が話し合い、意見を調整できます。例えば、どのような介護施設を利用するか、延命治療をどう考えるかなど、事前に話し合うことで、家族としても対応がしやすくなります。
断捨離のすすめ
断捨離は、健康なうちに進めておくのが理想です。必要な物とそうでない物を整理することで、親も暮らしやすくなりますし、将来的な負担を減らすことができます。
断捨離は早いにこしたことはない
断捨離は、健康なうちに進めておくのが理想です。必要な物とそうでない物を整理することで、親自身も暮らしやすくなりますし、将来的な負担を減らせます。
私は孫が生まれるのをきっかけに56歳で14年務めた病院を退職しました。
娘の手助けをしたいと思い、退職したのですが、そのタイミングで両親の体調がすぐれず、介護が始まりました。
88歳になる両親は、体調を崩すまでは、日常生活はぎりぎり二人でできていましたが、体調を崩したのをきっかけに、一気に身の回りのことに手伝いが必要となりました。
断捨離という言葉は両親には通用しませんでした。「もったいない。」「まだ使える。」と片付けがすすみませんでした。
家の中が片付かないことで、介護ベッドの搬入も遅れますし、荷物が多いことで、家の中の移動にも支障がでました。
親の断捨離は、自分にも体力と時間があるときにしか手伝えませんから、両親が若いうちから、話をしておくことをお勧めします。
きっかけ作りがキーポイント
断捨離の話を切り出すには、「そろそろ整理しておこうか」というような軽いトーンで始めるのが良いでしょう。親が前向きに取り組めるよう、手伝いを申し出て、一緒に進めることが成功の鍵です。主体は親です。
断捨離の本を渡して、「私もこの本を参考に片付けしてみたの。」とか一緒にYouTubeの片付けの動画を見てみるのも良い方法だと思います。
きっかけを作ることで、一歩前に進むことができます。
普段の様子から推測できる親の身体の不調
会話からわかる耳の状態
「最近、何度も同じことを聞いてくる」と感じたら、親の聴力が低下しているかもしれません。耳が遠くなってくると、会話がかみ合わなくなることがあるため、早めに耳の検査を勧めると良いでしょう。
会話がかみ合わないだけでなく、会話の声も大きくなる傾向になります。
聴力が低下してきたら、早めに補聴器を考えた方がよいです。
聴力の低下は認知機能にも影響を与えます。
私には88歳の両親がいます。父も母も耳の聞こえが悪くなり、普通の声の大きさでは会話が難しくなった85歳の時に補聴器を勧めました。
父はすぐに「補聴器をつけて話ができる方がいいよ。」と耳鼻科へ行って補聴器を試しました。88歳の現在も会話がスムーズで困ることがなくなりました。
母は「お金がかかるし、聞こえてるからだいじょうぶや。」と自分の聞こえていない事を認めようとせず、受け入れてくれませんでした。
88歳になってもう一度補聴器をつけるように勧めました。ようやく了承してくれたので、耳鼻科へ連れていきました。
母は耳の機能自体が落ちているので、スムーズに聞こえるまでには至りませんが、普通の大きさの声で会話が可能になりました。
大きな声で怒鳴るように話すことがなくなったので、私も楽になりました。大きな声で怒鳴るように言っていた頃は、近所の人からは虐待しているか、鬼のような娘と思われていたに違いありません。
足を使わなければ、弱るように、耳も使わなければ機能が衰えてくるのです。
内服薬の管理方法
親が薬を適切に管理できているかどうかも、日頃から気をつけておきたいポイントです。「薬を飲み忘れていないか」「量を間違えていないか」を確認し、必要であれば薬の仕分けや管理をサポートしてあげましょう。
これは実例ですが、仕事が休みの午前中に実家にいくと、父親が「今日はしんどいから寝てる。」と布団で横になってました。
実家にいてる3時間くらいの間に「今日の朝の薬は飲んだかな?大事な薬やから飲んどかなあかんな。」と何回も言いながら薬を飲もうとしました。
薬も病気に対して効果もあれば、副作用もあるので、管理ができなければ、害になります。
何種類かの薬の中には、血圧の薬、糖尿病の薬が混じっていました。
これがしんどい原因だったのです。
過剰内服の疑いです。
年齢からいくと、年相応の認知機能の低下があってもおかしくありません。
大事な薬だから、飲み忘れたらダメだと思っていたのでしょう。
「体調大丈夫?」と聞いた時には、「薬とかちゃんと飲めてる?」と一言付け加えたりして、会話を広げることで未然に防げる不調もあるかもしれません。
ご両親に不安があるのなら、内服の方法を目で見てわかる方法にしてみたらと提案してあげることができます。
負担のない関係
介護問題は、いつどのようにやってくるか分かりません。早めに準備を進めておくことで、いざという時に慌てずに対応できます。普段から親の体調や生活習慣を観察し、何が必要かを考えておくと安心です。
親子とはいえ、家庭があれば、親に介護が必要になったからといって全面的にフォローができるわけではありません。
兄弟がいれば、早めに親の老後の事について話をしておくことをお勧めします。
介護保険の活用
介護保険を活用することで、専門家のサポートを受けることができます。親が要介護認定を受けた場合、ケアマネージャーと相談して最適な介護サービスを利用することが、介護離職を防ぐ助けになります。
簡単に介護保険サービスを利用について説明すると。
まずは、住んでいる市町村の窓口で要介護認定の申請をしましょう。
申請後に認定調査が行われます。
市町村からの依頼でかかりつけ医が心身の状態について医師の意見書を作成します。(意見書作成の自己負担はありません。)
認定の通知は申請から30日以内に行われます。
計画書の作成は要支援と要介護では、依頼先が違います。
介護申請の方法について(参照:厚生労働省)
子供同士の調整
兄弟がいる場合、介護の負担を分担することが大切です。話し合いを通じて、お互いにどの部分をサポートできるかを話し合いましょう。すべてを一人で引き受けるのではなく、協力体制を作ることで、負担を軽減できます。
一人っ子の場合は、信頼できる相談相手を作ることや、市役所などの相談できる窓口を知っておくだけでも安心材料になります。
介護休暇の活用と介護休業との違い
介護休暇はあまり浸透していないので、使いづらい印象がありますが、ぜひ活用することを勧めたいと思います。
人生100年時代。超高齢化社会のため、40から50代の働き盛りの年代は、親の介護の事も考えなければいけない年齢です。
病気がきっかけで介護が必要になる人も多いため、急に介護について考えなければいけなくなり、心も体も疲弊してしまいます。
育児休暇と同じように介護休暇も認知されるべき
介護休暇は、病気や怪我、高齢などの理由で要介護状態になった家族を介護するために取得できる休暇です。取得できる日数は、対象家族が1人の場合は、年5日まで。対象家族が2人以上の場合は、年10日までです。
介護休業は、要介護状態になった家族を介護するために取得する長期間の休暇制度です。介護休暇では、1日や半日単位で取得しますが、介護休業は数週間や数カ月単位で利用します。介護休業は、介護休暇よりも長期で休暇がとれるため、家族の介護に専念できるでしょう。休業は年間通算93日取得でき、3回まで分割して取得可能です。
休むと勤め先に迷惑がかかるから、取得しにくいと考える方が多いと思いますが、介護休暇や介護休業を利用することで、介護に専念できるメリットがあります。利用しやすい環境になることを願います。
介護離職のデメリット
介護離職の原因は、仕事と介護の両立による実質的な負担が大きいことと、介護休業制度などが職場に浸透していないことだといえます。
高齢化社会の進行や要介護者の増加に伴い、介護離職する人が年々増加しています。
考え方としては、「仕事を辞めない」ことを前提に物事を考えることです。
離職することで起こるデメリットは、今後の生活にも大きく影響します。
介護離職する年齢は40歳代から50歳代の働き盛り、収入の増加が見込める年代です。
さまざまな制度の活用を知ること、職場の上司に相談して決してひとりで決めないことが必要になってくると思います。
介護離職にならないためには準備が必要
年齢を重ねると、体力が落ちて思うように動けなくなるのはみんな同じです。
病院で退院支援や、家族との調整などを行なっていても、いざ自分の親のことになるとわからないことも多く、知っているようで知らなかったことが多いことにも気づくことができます。
家族に介護が必要になった時や、そろそろ必要かもしれないと思った時には、仕事を辞める選択をする前に、事前に介護認定を受けることから始めましょう。そして、介護休暇、介護休業などの制度を使用することを検討しましょう。