——57歳の私が感じた、資格と経験が生きる場面
「辞めたいなあ」と思いながら、それでも続けてきた。そういう看護師さん、私だけじゃないですよね。
病棟を退職したとき、私は少し後ろめたい気持ちがありました。「看護師の仕事、もう続けられなかった」という、一種の敗北感のようなもの。でも今、58歳になって、地域医療連携室に転職して数ヶ月が経ったいま、ふとした瞬間に思うのです。「あのとき辞めなくてよかった、というより、ここまで続けてきてよかったな」と。
きょうは、私がそう感じた具体的な場面を、正直にお話しします。
医療の「共通言語」があるだけで、こんなに違う
地域医療連携室の仕事は、簡単に言うと「患者さんが病院から次の場所へ移るときの橋渡し」です。退院調整、転院調整、施設入所の手配、在宅への引き継ぎ……。窓口には、患者さんご本人、ご家族、介護支援専門員(ケアマネ)、訪問看護師、各病棟の看護師さん、医師、医療ソーシャルワーカーなど、本当にいろんな職種の方が訪ねてきます。
そのなかで、私がいちばん最初に「看護師でよかった」と思ったのは、電話対応でした。
訪問看護師さんから「バイタル的には落ち着いているんですが、SpO₂が夜間だけ少し下がっていて、主治医の先生にご確認いただけますか」という相談が入ったとき。私はすぐに内容を理解して医師に連絡することができます。
これ、看護師でなければ、まず「SpO₂って何ですか?」から始まります。医療の言葉が「共通言語」として使えるだけで、電話が一本スムーズに終わる。それだけでも、相手の時間を無駄にしないし、患者さんへの対応も速くなる。当たり前すぎて忘れていましたが、看護師20年の知識が、ここでそのまま武器になっていたんです。
「生活者としての患者さん」を想像できること
連携室の仕事でもうひとつ気づいたのは、患者さんの「生活」を立体的に想像できること、これも看護師経験のおかげだということです。
たとえば、「一人暮らしの高齢男性で、糖尿病があって、退院後は在宅希望」というケースがあったとします。書類の上では「要介護1、独居、糖尿病」とあるだけ。でも私は、「食事管理は誰がするの? インスリンは自己注射できる手先の器用さがあるかな? ゴミ出しは週何回か確認できてる?」という問いが、自然と頭に浮かびます。
病棟で患者さんの日常生活の援助をしてきたからこそ、連携室の「書類上の情報」が、ちゃんと「その人の暮らし」に見えてくる。これは事務職出身の方には、すぐには身につかない視点だと、一緒に働く先輩に言われてはっとしました。
「看護師の視点で見てくれると助かる」と言われたとき、正直、じんわりしました(笑)。
万博アテンダント時代の「接客経験」まで活きていた
これは予想外でした。2025年の大阪・関西万博でアテンダントをした経験が、連携室の窓口対応にも思いのほか役立っています。
万博では、何十ヶ国もの方々が訪れる会場で、一日中立ちながら案内・誘導・トラブル対応をしました。言葉が通じないことも多くて、「笑顔と身振りと、間の取り方」で乗り越えた日が何日もありました。
連携室では、患者さんのご家族が「どうしたらいいかわからなくて、もう頭の中が真っ白で……」と泣きながら来られることがあります。そういうとき、病棟の忙しい時間とは少し違う「ゆっくり受け止める間合い」が、万博での経験から少し磨かれていた気がします。
キャリアの回り道に見えたことが、まっすぐつながっている。それが58歳になった今、じわじわとわかってきます。
「看護師ってすごいんだな」と、自分のことで思えた
私は正直、自分の看護師経験をそれほど誇りに思えていない時期がありました。夜勤明けで疲弊して、人間関係でくたびれて、「こんな私に何かできることがあるんだろうか」と思っていた時期です。
病棟を辞めるとき、同期の看護師に「また戻ってきてね」と言われました。その時は「もう病棟は無理」と思っていたのに、今は不思議と、看護師という仕事自体への見方が変わっています。
連携室で「看護師さんの目線で聞いてもらえると安心です」と言われるたびに、「ああ、私は20年かけてこの見方を育ててきたんだ」と感じます。
これは、病棟を辞めた後に気づけたことです。中にいると、見えにくいことってあるんですよね。
50代だからこそ、経験に「深み」が出る
もうひとつ気づいたこと。私が40代だったら、同じ経験をしていても、もっと自信なさげにやっていたと思います。
50代後半になると、「わからないことはわからない、でもここはわかる」という切り分けが、自然とできるようになっています。新しい職場で戸惑うことは多いけれど、「看護師としての基礎」は揺るがない。その土台があるから、新しいことを学ぶときも焦らなくなりました。
「歳をとると覚えが悪くなる」のは事実かもしれない。でも「歳をとると土台が厚くなる」のも、同じくらい事実だと思います。
私を見ていてそう感じる、と友達に言われたとき、少し照れましたが、うれしかったです。
続けてきた時間が、今の自分を支えている
「もっと早く辞めていれば、もっと違う人生があったかもしれない」——そう思うこともゼロではありません。
でも今は、「続けてきた時間こそが、今の私の土台だ」という感覚の方が、ずっと大きい。
看護師を続けてよかった、と思う瞬間は、華やかな場面じゃありません。電話で一言スムーズに答えられたとき。患者さんのご家族の表情がほっとしたとき。同僚に「さすがですね」とさらっと言われたとき。
積み重ねてきた時間は、誰にも奪えない。それだけは、確かだと思っています。
50代のあなたにも、きっとそういう瞬間があるはずです。見えにくくなっているだけで、ちゃんとそこにある。
最後まで読んでくださってありがとうございます。また次回、ここでお会いしましょう。
次回予告
次回は「50代の転職活動で、年齢をハンデにしないための3つの準備——私がやっておけばよかったと後悔したこと」をお届けする予定です。転職を考えているけれど、年齢のことが気になって一歩踏み出せない方へ向けて、私のリアルな経験をお話しします。またここでお会いしましょう。